Bタイプの中毒を起こす毒きのこ

-悪酔い症状・発汗症状, 20分後から発症-

〔中毒の特徴〕発症が20分~ 2時間程度と早いのが特徴で,毒成分としてコプリンとムスカリンの2つのタイプが知られている.主に自律神経に作用するタイプの毒と考えられ,毒きのこは2つのタイプに分けられ,第3,第4グル-プとして以下に示した.

 

第3グル-プ:コプリンによりアンタビュース様中毒を起こす毒きのこ
ヒトヨタケ Coprinus atramentarius
*ホテイシメジ Clitocybe clavipes
が知られている。

 

〔中毒症状〕酒を飲む前後に食べると中毒するもので,中毒症状は顔,首,胸が紅潮し,はげしい頭痛,めまい,嘔吐,呼吸困難,不快感などで大変苦しむが,特別に処置は必要ない。ただこれらのきのこを食べる前後の数日間はアルコ-ルを飲まないこと.

 

〔毒成分〕悪酔い毒としてヒトヨタケからコプリンが単離された(生のきのこ1kgあたりコプリン160mg).
 体内に取り込まれたアルコ-ルは,アセトアルデヒドから酢酸をへて,炭酸ガスと水に分解される.マウスの体内では,コプリンはアセトアルデヒド脱水素酵 素(アセトアルデヒドから酢酸になる経路に働く酵素)を阻害しないが,コプリンの加水分解物である1-アミノプロパノ-ルは,この酵素を強く阻害し,血中 にアセトアルデヒドが蓄積し,ディスルフィラム様の中毒症状が出る。ディスルフィラム(disulfiram)はアセトアルデヒド脱水素酵素を直接阻害す る.

 

〔きのこの見分け方〕ヒトヨタケはワラなどの有機物を入れた庭や畑の土などから発生し,夜間に成長し,明け方には溶解するので,1夜茸と呼ばれる.ヒトヨタケ属(Coprinus)には多くの種類があるが,ヒトヨタケは比較的大型のきのこなので分かり易い.
 ホテイシメジはブナ林やカラマツ林に多く,全体の形が漏斗状をし,傘は灰褐色で,柄の根本がこん棒状にふくれる.

 

ヒトヨタケ Coprinus atramentarius
ヒトヨタケ Coprinus atramentarius
ホテイシメジ Clitocybe clavipes
ホテイシメジ Clitocybe clavipes

第4グル-プ:ムスカリン(発汗)中毒を起こす毒きのこ
アセタケ類(Inocybe spp.) とカヤタケ類 (Clitocybe spp.) が知られている.


〔毒成分〕ムスカリン(muscarine). ムスカリンは最初ベニテングタケから抽出されたが,含有量は低く,むしろアセタケやカヤタケ属のほうが含有量が高い.

 

〔中毒症状〕食後15-30 分以内で,だ液と汗が増加し,続いて嘔吐,下痢などいわゆるムスカリン症状が表われる.この症状は他に,瞳孔の縮小による視力障害,不規則な脈,血圧低下,ぜんそく様の呼吸,ひどい場合は心臓まひ,あるいは,呼吸が弱まり死亡する.
 マウスに対するL-(+)-muscarine のLD50は0.23mg/kg, ヒトに対する致死量は180 mgと推定されている.

 

〔きのこの見分け方のポイント〕アセタケ類,カヤタケ類ともに比較的小型のきのこで,我国からも非常に多くの種が知ら れている.アセタケ類は胞子が帯黄褐色で,つねに縁シスチジアを備え,きのこは小型のものが多く,分類が大変困難な仲間である.アセタケ属のいずれの種も 警戒したほうがよい.カヤタケ類は胞子が白色で,漏斗型である.不明種が多いが,コカブイヌシメジClitocybe fragransなどは中毒するので要注意.同じ仲間にドクササコがある(後述).

 

〔治療法〕処置としては胃内洗浄,アトロピン0.4-0.6 mg をムスカリン症状がなくなるまで,30分-1時間おきに筋肉内注射か静脈注射する(子供は年令に応じ0.2-0.4 mg). 嘔吐の後は,薄い塩水とブドウ糖を多量に飲ませる.