きのこ毒研究の意義


 毒きのこはヒトに対して毒性をもつきのこである.したがって毒成分を抽出しても,人に対してその化合物が毒性を持つかどうかは, ヒトに対するバイオアッセイが大変難しいので, 決定しかねる場合が多い.

 

 きのこに含まれる毒成分を定量して, 他の動物実験などの結果からヒトに対するLD50などを推定することは出来るが, 動物とヒトの代謝生理が同じとは限らず, この分野の研究を大変困難なものにしている.例えばシロシビンや LSDによる幻覚はヒト以外の他の動物では再現できず, ホフマン自身が抽出物を自ら食べてバイオアッセイし,構造決定したことは, 有名である.

 

 また嘔吐はヒト,サル,ブタ以外の動物ではあまり見られず,マウスなどは嘔吐中枢が欠損しているため,バイオアッセイに使えない。嘔吐を催すクサウラベニタケの毒成分をカエルを使って検出した例は,カエルが嘔吐する唯一の小型動物であることを利用して成功した例である.

 

 ムスカリン,ムッシモ−ル,シロシビンに代表される神経系に作用する物質は,神経の生理学,特に大脳のメカニズム解明に大いに期待されている.また猛毒 の環状ペプチド・アマトキシンやファロトキシン類がテングタケ科のレピデラ亜属(胞子がアミロイドの一群)のきのこに多く検出されることなどは,化学分類 学(chemotaxonomy)の分野に,今後, 毒物質が大いに貢献するであろう.またこれらのペプチドは現代細胞生物学においては,なくてはならない試薬になっている.

 

 北米とヨ−ロッパに分布する発光性の毒きのこOmpalotus oleariusからイル−ジンS が抽出され,ツキヨタケから抽出されたランプテロ−ルと同一物質であることが判明した.これは両種が近縁であることの1つの証拠であろう.(Singerは 両種をヒダハタケ科に分類し,この化合物が両種からしか見出せないことから,両者は非常に近縁であると考えている).